デジタルオンリーライブラリ(Digital-only Library)またはオールデジタルライブラリ(All-digital Library)

バーモント州カレッジシステム(Vermont State Colleges System、VSCS)が2月7日に発表したプレスリリース“Announcing Changes to Vermont State University Athletics and Libraries”が波紋を広げています。

VSCSは、入学者数の減少や財政状況の悪化などから、Northern Vermont University、 Castleton University、Vermont Technical Collegeの3つの大学を統合し、2023年7月1日にVermont State Universityを設立する予定です。その際、既存の物理的な図書館は廃止し、図書館資料はすべて電子で提供すると先のプレスリリースで発表しました。

これに対して、2月10日に開かれた説明会(forum)で学生やコミュニティの住民から驚きや怒りの声が上がり、大学当局が謝罪したことがメディアで報じられたのです。ただし、当局はこの方針を撤回する予定はないようです。

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記事では、学生や住民からは、場所としての図書館がなくなることへの不満、すべてがオンラインに移行していく中で資料までもがオンラインで提供されることへの使い勝手への懸念や健康への不安、障害を持つ人の中にはデジタル資料を利用できない人もいることへの問題提起など、さまざまな課題が紹介されていました。

他方、先のプレスリリースでは、オールデジタルへ移行するメリットを次のように挙げています。

  • Access to professional research librarians via 24/7 chat coverage.(24時間365日、プロフェッショナルライブラリアンがチャットで対応します)
  • Credentialed librarians will be available in-person at all Vermont State campuses.(すべてのバーモント州立大学のキャンパスで、有資格のライブラリアンに対面で相談できます)
  • Unlimited user access to resources.(図書館資料を無制限で利用できます)
  • Access to paid resources such as databases, scholarly articles, and articles behind paywalls.(データベース、学術雑誌論文、有料論文などの有料学術情報資源を利用できます)
  • Access to more information. Digital libraries can store significantly more information than physical libraries, which are limited by storage space.(より多くの情報を利用できます。デジタルライブラリは保管スペースに限りのある物理的な図書館よりもはるかに多くの情報を保存できます)
  • More places for students to gather to study, use computers and printers, and access class materials.(学生が学習のために集まったり、PCやプリンタを利用したり、授業教材を利用するための場所をより多く提供します)
  • Special collections, on-reserve resources, and interlibrary loans will still be available.(特殊コレクション(筆者注:貴重書やその大学独自の資料群)、指定図書、図書館間相互貸借(ILL)は今後も利用できます)

これまで当たり前のように存在していた図書館(建物、学習空間、図書館資料、ライブラリアン)が突然、デジタルに移行すると聞かされて困惑しない学生は少なくないでしょう。一方で、上述のメリットを見る限り、またプレスリリースに付されたLibrary FAQを読む限り、大学当局が考えもなしに一方的に事を進めているとも思えません。例えば、既存の図書館(建物)は次のように扱うとFAQで説明されています。

We understand the important role libraries play in the fabric of Vermont life as well as within our campus communities. We want to re-imagine the use of the library spaces to provide resources such as community commons, enhanced study spaces, student services, and access to other innovations and tools. We will engage with our campuses and larger communities to re-imagine the spaces. 

As of July 1, 2023, these spaces will no longer provide services including circulation and physical materials (these materials will be available digitally). Interlibrary loans will still exist, but with a shift to e-books and digital articles and other materials. 

We plan to launch a request-for-proposal process to engage architectural resources for this purpose. In the short term, we will make some changes to these spaces in the lead up to the Fall 2023 semester.

図書館が学生生活にとって重要であることを理解したうえで、学生の学習や学生サービスのための場所として再構築していくことが述べられています。ただ、物理的な資料の提供はしないともはっきりと述べられています。PhysicalとDigital(Virtual)の間のバランスに関して、どのように共通理解を得ていくかが今後の課題のようです。

なお、この方針を計画するにあたり、大学当局は学生へのアンケート調査も実施し、その結果をもとに策定したとのことです。ただ、メディアの記事によると、学生数5,500人のうち回答者は約1割にあたる500人であったとのことで、学生の意見が反映されていると言えるのかという疑問となり、冒頭で述べた波紋に繋がっているようです。

昨今、日本の公共図書館電子書籍の導入が新聞などでよく取り上げられるようになりました。コロナ禍の外出自粛という背景もあり、図書館を訪れなくても本を借りられるという、デジタル化されたサービスに注目が集まっているのでしょう。私自身、大学図書館に足を運ばずに、データベースや電子ジャーナルなど図書館が提供するサービスで研究に必要な資料を探したり、手に入れたりできてとても助かっています。逆に、電子で入手できないときはとても困ったりもします。大学のような学習や研究を主とする機関では、電子の優位性はますます高まる一方です。そのとき、物理的な特性にどのような価値を見出すのか、(あまりこういう表現は使いたくありませんし証明するのも難しいですが)費用対効果はどうか、それを求める利用者にどう対応していくかなど、あらためて私たちが考えるきっかけを、今回の話題は提供してくれているように思いました。