図書館と福袋

ここ数年、年末年始になると、図書館で福袋を貸し出していますというニュースをウェブサイトや新聞などで目にします。「図書館で福袋」と聞いて「???」と思う方もいらっしゃるかもしれません。図書館で提供している福袋とは、図書館職員が一冊ないし複数冊の本を選び、その内容がわからないように紙袋などに入れ、利用者に貸し出すサービスです。

www3.nhk.or.jp

 

長野県松本市の図書館では、一冊ずつ新聞紙で包装し、その本の一文を表に掲載した福袋を用意しており、利用者がこれを目安に本を選んでいるようすが報道されています。

newsdig.tbs.co.jp

 

このニュースから思い出したのが、2012年に紀伊國屋書店新宿本店で開催された「ほんのまくらフェア」です。本の書き出し(=まくら)が印刷された包装用紙にくるまれた本が販売されました。図書館の福袋は「借りる」だけですが、書店では「購入する」必要があります。ギャンブルですね(笑)。

www.kinokuniya.co.jp

 

私が勤務する中央大学の図書館でも、学生協働企画として、同じイベントが2021年に行われました。

www.chuo-u.ac.jp

 

図書館の本の福袋は、いったいいつごろから行われるようになったのでしょうか。実践女子大学の須賀千絵氏によると、2010年1月に宝塚市立図書館で行われた企画が国立国会図書館カレントアウェアネスで取り上げられたことが全国に広まるきっかけとなったのではないか、その宝塚市立図書館の職員によればそれ以前に浦安市立図書館で行われていたと指摘があること、新聞記事として2008年に東松島市図書館が絵本福袋を実施したと報道されていることなどが紹介されています(須賀千絵. 図書館福袋サービスの実施内容と利用者の認知. 実践女子大学文学部紀要. 2021, 63, p. 57-67. http://doi.org/10.34388/1157.00002203, (参照2023-01-09). )。

須賀氏は、本の福袋は読者にとって未知の本を紹介することから、欧米で言うreaders' advisory serviceに相当するものであるとし、関連する文献を調査した結果、次のように指摘しています(p. 58)。

欧米の実践例を調べても、類似のサービスは見られないので、図書館福袋は日本独自のアイデアであると言える。

そのような本の福袋ですが、類似のサービスが海外にありました! お正月休みを過ごしたパース(Perth、オーストラリア西オーストラリア州の州都)の市立図書館を訪れたときのことです。図書館の入口を入り、BDS(Book Detection System、無断帯出防止装置、貸出手続きをしないまま本を持ち出すのを防止するゲート)を過ぎたところに、おすすめ図書を紹介するコーナーがありました。

新着図書コーナー

その下に目を移すと「CRIME - BAG 3」「THRILLER - BAG 1」などと札の付いた袋が置いてありました。

本の福袋?

そこには次のように記されていました。

  • Books may be returned individually
  • Please return this bag with this tag attached with the final book return
  • Bags are refilled with new titles after each return
  • Normal borrowing conditions apply

たとえば「THRILLER」の袋の中には、スリラーものが何冊か入っていて、通常の貸出と同じ条件で貸し出していること、読み終わった本はまとめて返してもいいし、一冊ずつ返してもよいこと、最後に袋もそのまま返してほしいこと、袋の中身は適宜変わることなどがわかります。まさに「本の福袋」!

休暇で訪れたオーストラリアの西の端の都市で、このようなサービスに出会えるなんて思ってもみませんでした。このサービスをいつから始めたのか尋ね忘れたことだけが唯一の後悔です(泣)。

ちなみに、私が訪れたパース市立図書館は、2016年に新しく開館した図書館で、外観も素敵です。

パース市立図書館

館内も大きな吹き抜けがあったり、子どもたちの遊び場にもなる半外スペースがあったり、若者向けのフロアが独立して設けられたりなど、さまざまな工夫が施されています。館内見学後、1階に設けられたカフェでコーヒーとケーキも楽しみました。とても居心地のよい図書館と感じました。

コーヒー(Flat white)とケーキ